歯がうずくような痛みや、ズキズキとした違和感に悩む方は少なくありません。これらの症状は、歯の神経にあたる「歯髄(しずい)」が炎症を起こす「歯髄炎(しずいえん)」の可能性が疑われます。放置すると激しい痛みや治療の長期化につながるため、早急な対処が肝心です。
本記事では、歯髄炎の基本情報や治療法を分かりやすく解説します。症状でお悩みの方は参考にして、早めの歯科受診をご検討ください。
目次
歯髄炎(しずいえん)の基礎知識
歯髄炎とは、歯の神経にあたる「歯髄」が炎症を起こした状態です。まずは歯髄の基本を理解するため、以下4つのポイントを順に解説します。
- 歯髄(歯の神経)の役割と重要性
- 歯の構造における歯髄の位置づけ
- 歯髄炎の定義と疾患としての特徴
- 歯髄炎の種類と分類
それぞれ見ていきましょう。
歯髄(歯の神経)の役割と重要性
歯の神経と呼ばれる歯髄は、血管や神経線維などが集まった重要な組織です。栄養や酸素を歯に供給するだけでなく、外部からの刺激を感知して痛みの信号を脳へ伝えます。つまり歯髄は、歯の健康状態をチェックするセンサーのような役割も担っているのです。
さらに、若い時期には新たな歯質を作る細胞も存在し、歯の成長や修復を支える機能も持ち合わせています。歯髄がダメージを受けると歯そのものが脆くなりやすく、細菌感染のリスクも高まるため、歯髄を健全に保つことは歯の寿命に直結する大切なポイントです。
歯の構造における歯髄の位置づけ
歯は大きく分けると、表面を覆う硬いエナメル質、その内側にある象牙質、そして最内部にある歯髄という3つの層で構成されています。エナメル質は人体の中でもっとも硬い組織です。しかし、象牙質は相対的に柔らかく、神経や血管が集まる歯髄を保護する役割を担っています。
歯髄は外部からの衝撃や細菌の侵入を象牙質を通じて感知し、痛みや温度変化を脳へ伝えるセンサーでもあります。もし刺激が強すぎると、象牙質を介して神経が直接刺激され、激しい痛みを引き起こすことも。また、歯髄は狭い空間に閉じ込められているため、炎症時に内圧が高まって痛みが増しやすい点にも注意が必要です。
歯髄炎の定義と疾患としての特徴
歯髄炎とは、歯の中心部にある歯髄が細菌感染や物理的刺激などにより、炎症を起こした状態です。多くの場合、虫歯が神経付近まで進んだことが原因ですが、外傷や歯ぎしり、強い咬み合わせの力も引き金になります。
炎症が起こると血流や神経活動に異常が生じ、ズキズキとした強い痛みや、冷たいもの・熱いものがしみるような症状を引き起こすのが特徴です。歯髄は硬い歯質に囲まれており、炎症によって内圧が高くなると逃げ場がなく、痛みが増幅しやすくなります。放置すると根の先にまで感染が及ぶおそれがあるため、早めに診断と治療を受けることが大切です。
歯髄炎の種類と分類
歯髄炎はおもな症状の可逆性と発症の経過によって分類されます。大きく分けると「可逆性歯髄炎」と「不可逆性歯髄炎」、そして発症パターンによる「急性歯髄炎」と「慢性歯髄炎」があります。
可逆性歯髄炎と不可逆性歯髄炎の違い
可逆性歯髄炎は、適切な治療により歯髄を残したまま炎症を鎮静化できる初期段階の状態です。おもに冷たいものへの一過性の痛みが特徴で、刺激がなくなると痛みも消失します。虫歯を除去して適切な処置を行えば、歯髄を残したまま治療が可能です。
これに対して不可逆性歯髄炎は、歯髄が回復不可能なまでに炎症や感染が進行した状態です。自発痛(何もしていなくても痛む)や持続的な痛み、夜間の激痛などが特徴で、この段階では歯髄を除去する「根管治療」を要します。刺激がなくなっても痛みが続く場合は、不可逆性歯髄炎の可能性が高いと考えられます。
急性歯髄炎と慢性歯髄炎の特徴
急性歯髄炎は、突然発症し、強い痛みを伴うのが特徴です。冷温刺激で強く反応し、とくに温かいものに対する痛みが顕著です。咬合痛(噛むときの痛み)や自発痛も生じ、夜間に悪化することも。痛みはズキズキとした拍動性で、鎮痛剤を服用しても効果が限定的なことがあります。
一方、慢性歯髄炎は長期間にわたって徐々に進行する状態で、痛みの強さは比較的穏やかです。痛みが出たり引いたりを繰り返すことが多く、炎症が長期化すると歯髄内に膿が溜まる「歯髄壊疽」に進行することも。どちらの状態も放置すると、歯根の先に炎症が波及する「根尖性歯周炎」へと進行するリスクがあります。
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歯髄炎の治し方
歯髄炎の治療は、炎症の進み具合によって大きく異なります。以下3つを押さえておくと、自分の症状を正しく理解しやすく、適切なケアや受診につなげられるでしょう。
- 歯髄を残す方法(可逆性の場合)
- 歯髄を除去する方法(不可逆性の場合)
- 抜髄しても改善しないケース(抜歯・歯根嚢胞など)
詳しく解説します。
歯髄を残す方法(可逆性の場合)
炎症が比較的軽度で、神経がまだ十分に生きている場合は、歯髄を温存する治療を検討します。具体的には、虫歯部分を削ったあと薬剤や充填材で保護し、自然治癒を促す方法です。この治療によって歯の機能を維持しながら痛みを和らげられるため、通院回数や体への負担も抑えられます。
ただし、痛みが一時的におさまっても、ケアを怠ると再び悪化する可能性がある点に注意が必要です。定期検診とセルフケアを継続して行うことで、歯髄を残せる見込みが高まります。また、歯ぎしりや食生活などの習慣を見直すことも、神経の炎症を予防するうえで大切です。
歯髄を除去する方法(不可逆性の場合)
炎症が重度に進行して歯髄が回復不能になった場合は、神経を除去する根管治療が選択肢となります。まず、虫歯や感染部位をていねいに取り除き、歯髄が通る管(根管)内部を消毒して充填材を詰め、再び細菌が侵入しないよう封鎖する流れです。その後、被せ物などで歯の形を整え、噛む機能を確保します。
ただし、神経を取り除いた歯は血流や感覚が失われるため、将来的に割れやすくなるリスクが高まる点に留意しましょう。定期的な受診や適切なブラッシングの継続によって、再感染や歯の破損を防ぎ、長持ちさせることが重要です。
抜髄しても改善しないケース(抜歯・歯根嚢胞など)
まれに根管治療を行っても痛みが続き、症状が改善しない場合があります。おもな原因は、歯根に亀裂が入っている、根の先に膿の袋(歯根嚢胞)が形成されているなどがあげられます。このようなケースでは、残念ながら抜歯が必要になることも少なくありません。
さらに、感染が骨や周囲の組織まで及んでいる場合は、保存的な治療だけでは十分に対応しきれない可能性があります。抜歯後はインプラントやブリッジなどで欠損を補うか、状態に応じた方法を検討するのが一般的です。
歯髄炎は早期対応が大切
歯髄炎は放置すると痛みが増すだけでなく、治療も複雑になりやすい厄介な症状です。早めに対処すれば、神経を残せる可能性が高まり、通院期間の短縮も期待できます。
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